2012年4月25日水曜日

高ビリルビン血症: 新生児における代謝,電解質,および中毒性障害: メルクマニュアル18版 日本語版


高ビリルビン血症は血清ビリルビン濃度が上昇する病態であり,異常値の閾値は年齢(生後日数)によって,また早期産児の場合には健康状態によって異なる。主な徴候は黄疸であるが,顕著な高ビリルビン血症では,神経損傷の症候群である核黄疸を引き起こすこともある。診断は診察で明らかであり,血清ビリルビンの測定で確定される。治療は原因と上昇の程度によって異なり,確実な治療としては光療法および交換輸血がある。

病因と病態生理

新生児高ビリルビン血症の原因を新生児における代謝,電解質,および中毒性障害: 新生児高ビリルビン血症の原因表 1: に挙げる。一般的に,高ビリルビン血症は生理的な場合と病的な場合があり,常に,ビリルビンの過剰産生,クリアランスの低下,または腸肝循環の増加が原因である(周産期の生理: ビリルビンを参照 )。ほとんどの場合は非抱合型高ビリルビン血症であるが,肝機能障害(例,胆汁うっ滞を引き起こす非経口栄養,新生児敗血症,重度の胎児赤芽球症)により抱合型高ビリルビン血症が発生することもある。

生理的高ビリルビン血症は,ほとんど全ての新生児に起こる。新生児の赤血球は寿命が比較的短いためビリルビンの産生が増加する結果として抱合不全によりクリアランスが低下すること,および腸内の細菌レベルが低いことが,抱合型ビリルビンの加水分解の増加と相まって腸肝循環を増加させる。ビリルビン値は生後3〜4日(アジア人種では7日)で18mg/dLまで上昇し,その後下降する。

母乳黄疸は,母乳栄養を受けている生後1週間以内の新生児の1/6に発症するもので,母乳栄養は,母乳摂取量が低下している乳児や脱水またはカロリー摂取不足に陥っている乳児の一部において,ビリルビンの腸肝循環を増加させる。


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正期産児の病的な高ビリルビン血症とは,生後第1週までに起こる,あるいは異常な過程により引き起こされる18mg/dLを超えるビリルビン血症のことである。ビリルビン産生増加の最も多い病的原因は溶血性貧血であり(周産期血液疾患: 溶血を参照 ),通常は血液型不適合が原因で,またその他には赤血球増加症(例,双胎間輸血)および血腫も原因となる。ビリルビンクリアランスが減少する状態は,クリグラー-ナジャー症候群およびジルベール症候群などの抱合が損なわれる遺伝性疾患にみられる(肝疾患がある患者へのアプローチ: ジルベール症候群を参照 )。

症状,徴候,診断

高ビリルビン血症は無症候性であるが,4〜5mg/dL(68〜86μmol/Lを超える)を超えると黄疸が発生し始める。ビリルビン値が上昇するにつれ,外見上では頭から足の方へ黄疸が進行する。長期にわたる高ビリルビン血症は,核黄疸を引き起こす(新生児における代謝,電解質,および中毒性障害: 核黄疸を参照 )。

診断は,乳児の皮膚色から疑われ,血清ビリルビンの測定で確定される。早期産児で10mg/dLを超える(170μmol/Lを超える),または正期産児で18mg/dLを超える(308μmol/Lを超える)ビリルビン濃度では,Hct,血液塗抹標本,網状赤血球数,直接クームス試験,血清総ビリルビンおよび直接血清ビリルビン濃度,新生児と母親の血液型およびRh型の検査を含む追加的な診断検査が必要となる。このほかにも,病歴,身体診察,初期検査所見,または25mg/dLを超える(428 μmol/Lを超える)初期ビリルビン値によっては,敗血症を検出するための血液,尿,脳脊髄液培養,溶血のまれな原因を検出するための赤血球酵素レベルの測定などの検査が必要となることがある。

病歴が疑われる場合でも,母乳性黄疸は除外診断となり,特異的な治療が必要となる高ビリルビン血症の他の原因を考えることが必要である(周産期における問題: 代謝障害も参照 )。

治療


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生理的黄疸は通常臨床的には問題にならず,1週間以内に消失する。頻回の調製乳栄養は,消化器の蠕動と排便頻度を増やし,ビリルビンの腸肝循環を最小限にすることで,高ビリルビン血症の発症および重症度を減じることができる。調製乳の種類はビリルビン排泄を増やすことに関しては重要でないと思われる。

調製乳使用頻度を増やすことおよび母乳に代わる水の使用を最小限にすることによって,母乳性黄疸を防ぐまたは減らすことが可能な場合がある。早期母乳性黄疸のある正期産児で,ビリルビン値が18mg/dLを超えるまで増え続けているときには,一時的に母乳から調製乳に切り替えるのが適当であり,光療法も必要である。母乳栄養の中止は1〜2日でよいことが多く,母親には患児のビリルビン値が低下し始めたならばすぐに授乳を再開できるように母乳を定期的に搾乳し続けるよう奨励する。母親には,高ビリルビン血症は何ら害を起こさず安全に母乳栄養を再開できるということを理解させておく必要がある。

最終的な治療法は光療法または交換輸血である。

光療法: 光療法は,光を使用してビリルビンを光異性化し水への溶解度を高め,グルクロン酸抱合なしでも迅速に肝臓から排泄できるようにするものである。これは,高ビリルビン血症の最終的な治療および核黄疸の予防となる。光療法は,非抱合型ビリルビンが12mg/dLを超えるときの選択肢であり,また非抱合型ビリルビンが25〜48時間で15 mg/dL;49〜72時間で18mg/dL,72時間以上で20mg/dLを超えると適応となりうる;抱合型高ビリルビン血症には適応はない。


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標準的な光療法のライトは,患児の頭上の中央に配置された青い4個の電球と両側の昼光蛍光電球から構成される。2倍の光療法のライトは,上述のものと同一の光構成と患児の下にある光ファイバーのパッドから構成される。青色光線は白色光よりも効果的であるが,青色光線を使うとチアノーゼの発見が困難となるので,広域白色光もまた使用されている。透明なアクリル遮蔽板を光療法用ライトと新生児の間に置いて紫外線照射を排除し,また新生児の眼に障害が発生しないよう目隠しをする(鼻を閉鎖しないよう注意する)。授乳中は光を消し,目隠しを取る。光療法実施中は,外見上は黄疸が消失したように見えるが血清ビリルビン値は高値のままなので,皮膚によって黄疸の重症度評価をすることはできない。採取用� �験管内のビリルビンは急速に光酸化されるので,ビリルビン測定に使用する血液は強い光が当たらないよう遮光する。

交換輸血: 交換輸血は,重度の高ビリルビン血症(大抵は溶血を伴う)で適応となる。少量の血液を採取し,部分的に溶血して抗体で覆われた赤血球を取り除き,供血者の抗体で覆われていない赤血球と交換して臍静脈カテーテルを通して補充する。核黄疸の原因となるのは非抱合型高ビリルビン血症だけであり,抱合型ビリルビンが有意に上昇したとしても,交換輸血が必要かどうかの決定には総ビリルビン値ではなく非抱合型ビリルビン値を使用する。

特異的適応としては,血清ビリルビンが24〜48時間で20mg/dL以上の場合,48時間を超えると25mg/dL以上の場合,光療法の失敗として開始4〜6時間以内で1〜2mg/dL減少する場合,またはビリルビン値にかかわらず核黄疸の最初の臨床徴候がみられた場合などがある。初検査時から血清ビリルビン値が25mg/dLを超えている場合は,集中的光療法によるビリルビン値軽減の失敗に備えて,交換輸血の準備を整えておく必要がある。他のアプローチでは,新生児の体重(g)を100で割った値を使用し,交換輸血の適応となるビリルビン値(mg/dL)を決定する。つまり1000〜1500gの新生児では10〜15mg/dLのビリルビン値で交換輸血を実施し,1500〜2000gの新生児の場合は15〜20mg/dLとなる。


大抵の場合,交換量10〜15mL/kgの濃厚赤血球を2〜4時間かけて投与するか,代わりに2回連続して10mL/kgに小分けにしたものを1〜2時間かけて投与して合計で20mL/kgとする。高ビリルビン血症が1〜2時間以内に輸血前の約60%のレベルまでリバウンドしうるということを知っていれば,目標はビリルビンを50%近くまで減少させることである。また核黄疸のリスクを増大させるような状態(例,飢餓,敗血症,アシドーシス)にある場合は,その目標レベルをさらに1〜2mg/dL下げるのも通例となっている。ビリルビン値が高いままであれば,交換輸血を繰り返す必要もありうる。

経験豊富な者が実施すれば全体的な死亡率は1%未満となる。

核黄疸

(ビリルビン脳症)

核黄疸とは,大脳基底核および脳幹核への非抱合型高ビリルビンの沈着による脳の損傷のことである。

正常では,血清アルブミンと結合しているビリルビンは血管内腔に保たれる。しかしながらビリルビンは,血清ビリルビン濃度が著しく上昇している場合,血清アルブミン濃度が著しく低い場合(例,早期産児の場合),ビリルビンが競合結合物質(例,スルフィソキサゾール,セフトリアキソン,アスピリン;空腹時の遊離脂肪酸および水素イオン,敗血症またはアシドーシスの乳児)でアルブミンから置換されている場合,これらのいずれかの場合には,血液脳関門を通過して核黄疸を引き起こすことがある。

早期産児では,核黄疸であっても認識可能な臨床症状や臨床徴候がないことがある。乳児における初期症状は嗜眠,哺乳不良,嘔吐である。後弓反張,注視発作,痙攣から死へ至る。核黄疸によってその後の小児期に精神遅滞,舞踏病アテトーゼ性脳性麻痺,感音性難聴,上方注視麻痺が生じることがある。軽度の核黄疸がそれほど重度ではない神経系機能障害を起こすか否かはわかっていない(例,感覚運動ハンディキャップや学習障害)。

核黄疸のリスクを明らかにする信頼できる検査法はなく,診断は推定に基づいてなされる。確定診断は剖検によってのみ可能である。

一旦核黄疸を発症すれば治療法はないが,高ビリルビン血症の治療よって予防できる(新生児における代謝,電解質,および中毒性障害: 治療を参照 )。



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