広がる「脳バンク」 パーキンソン病や精神疾患、治療法探る | 最近の気になるニュースから | 社会福祉法人朝日新聞厚生文化事業団
広がる「脳バンク」 パーキンソン病や精神疾患、治療法探る
(2010年6月2日付朝日新聞朝刊生活面から)
死後の選択肢の一つとして、自分の脳を研究のために提供する「脳バンク」への登録が広がりつつある。学会が来年をめどに体制づくりを目指している。うつ病やパーキンソン病など脳の病気は、まだ不明な点が多い。主な症状をもとに診断されている状況だ。提供された脳は多くの患者への新たな診断や治療法の開発につながると期待されている。(宮島祐実)
●患者ら、死後に提供
東京都八王子市に住む清徳保雄さん(67)が手の震えに気づいたのは、自宅で新聞を読んでいる時だった。紙面が音をたてて揺れていた。手元を見て、ようやく自分の手が震えているとわかった。1998年の秋だった。
「パーキンソン病です。この病気は現在の医療では治りませんが、薬で今まで通りの生活を10年は保障します」。医師からそう告げられた。初めて聞く病名だった。
患者会の代表を務めるようになった2006年、国立精神・神経医療研究センター(東京都小平市)の主治医から研究のために死後に脳の提供に同意する「パーキンソン病ブレイン(脳)バンク」を紹介され、すぐに登録した。
ドナー(提供者)カードを見ながら、ふと「脳を抜かれたら、心もなくなってしまうのかな」と思いもした。発症して12年。パーキンソン病は依然、完治しない病気だ。妻は積極的に同意したわけではない。今は「治る病気になるために自分の脳が役立てばいい」と考えている。
どのような医師はuncontrol高血圧に記載されていません。
脳バンクは脳の病気の解明や治療法の開発のため、病理解剖をして脳を取り出し、保存しておく仕組みだ。自分が亡くなった後、脳を研究に使うことに同意する生前登録を受け付けるバンクもある。登録するには医師やコーディネーターから事前説明を受け、同意書面に署名する。
解剖して取り出された脳は、さらに分割され保存される。こうした摘出にかかる費用はバンクが負担する。
患者以外からも生前登録を受け付けている脳バンクは、パーキンソン病ブレインバンクのほか、福島県立医科大学(福島市)の「精神疾患死後脳バンク」がある。00年から始めた提供者の登録は今では約100人を数え、半数を県外の人が占めるようになった。
●健常者の登録も募る
日本ではこれまで、研究に使う脳を米やオランダなどバンクの活動が盛んな海外からの供給に頼ってきた。
国内で提供者の登録が広がれば生前の症状と照らし合わせてみることができる。国立精神・神経医療研究センター病院第一精神診療部の有馬邦正部長は「健常者とも比較できれば、原因を解明する手がかりになる」と健常者の登録も呼びかける。
だが、現状では対応数は限られる。パーキンソン病ブレインバンクは搬送範囲を首都圏に限っているが、来年中にも新潟大と愛知医科大を協力病院に加え、各地で提供について考えてもらう機会を増やす考えだ。
福島県立医大のバンクは、賛同する個人や団体からの会費で運営。年間約300万円の資金で脳の摘出ができるのは年間5人ほど。日本生物学的精神医学会は約10の大学や医療機関に参加してもらい、全国的な脳バンクの体制を来年にもつくる。
人の思考をつかさどる脳を提供するだけに、提供をためらう人は多い。福島のバンクも当初、積極的に登録したのは統合失調症の患者やその家族だった。
"気分障害を持つ子どものための適切な規律"
精神疾患の患者は、差別や偏見にさらされることも少なくない。登録した患者の中には死後、自分の脳を研究する時の参考になればと、薬の記録や診断用の画像を寄付する人もいる。
福島のバンクには現在、精神疾患の患者34人の脳が保存されている。同大の國井泰人助教は「生前、自分や家族を苦しめた病気を少しでも早く解明して欲しいという、切実な期待が込められています」と話す。
◇臓器提供・アイバンク・献体…死後の選択肢様々
前例はないが、臓器移植法に基づいて臓器や眼球を摘出した後でも、脳を提供することは法的には可能だ。
臓器の提供は心臓が停止した場合、腎臓、膵臓(すいぞう)、眼球が対象になる。脳死の場合、心臓、肺、肝臓、小腸の提供もできるが、脳の摘出はできない。
アイバンクは眼球を摘出して角膜を提供する。見た目の違和感がないように摘出後は義眼を入れる。
提供された臓器は日本臓器移植ネットワークに登録した待機者から、医療的な優先順位や移植を待っていた期間に応じて移植される。アイバンクも同じだが、1月に改正臓器移植法が一部施行され、本人の意思があれば、親や子ども、配偶者に優先して提供が認められることになった。
献体は大学医学部の解剖研究に使う目的で遺体を提供する。登録は住んでいる都道府県の大学か、日本篤志献体協会に問い合わせる。
協会によると、登録できる年齢は大学ごとに違い、50歳以降が多い。解剖後に遺体は火葬して自宅に返されるが、1年半〜3年かかる場合もある。
亡くなった直後は家族が連絡しなければ、臓器や遺体は提供できない。家族の同意も必要になるため精神的な負担も少なくない。臓器や遺体の提供について、日頃から家族に意思を伝え、十分理解を得ておくことが重要だ。
◆キーワード<パーキンソン病とうつ病>
"頭痛の夜"
<パーキンソン病> 手足の震えや体のこわばり、動作が緩慢になるのが主な症状だ。脳の黒質部分の神経細胞が減ることが原因とされている難病。国内には約14万人の患者がいると推計されている。
<うつ病> 気分が憂うつになったり、悲しくなったりして、何をするのもおっくうになる。睡眠障害や疲労感など身体症状として現れることもある。躁(そう)うつ病も含む患者は約100万人とみられている。
■脳バンクの連絡先
<精神疾患死後脳バンク>
【摘出する臓器】脳
【事務局】福島県立医科大学神経精神医学講座 http://www.fmu−bb.jp/
<パーキンソン病ブレインバンク>
【摘出する臓器】脳と脊髄(せきずい)、または全身解剖
【事務局】国立精神・神経医療研究センター http://www.brain−bank.org/
■臓器や遺体の提供
<臓器提供>
【摘出する臓器など】肺、心臓、膵臓、肝臓、小腸、腎臓、眼球
【年齢制限】15歳以上(※7月17日の改正臓器移植法により、年齢制限はなくなる)
【事務局】日本臓器移植ネットワーク http://www.jotnw.or.jp/
<アイバンク>
【摘出する臓器など】角膜
【年齢制限】なし
【事務局】日本アイバンク協会 http://www.j−eyebank.or.jp/
<献体>
【摘出する臓器など】全身。解剖後、火葬して家族の元へ
【年齢制限】大学により異なる
【事務局】日本篤志献体協会 http://www.kentai.or.jp/
脳バンク設立へ うつ・認知症研究へ生前登録
(2010年5月25日付朝日新聞朝刊社会面から)
精神疾患の治療や研究をしている医師・研究者らでつくる日本生物学的精神医学会は、「脳バンク」を立ち上げる。亡くなった人の脳を提供してもらって凍結保存し、うつや統合失調症、パーキンソン病、認知症などの診断や治療の研究に役立てる。すでに取り組みを始めている福島県立医大を基盤にして、来年中にも全国10の大学や研究機関を拠点に、提供希望者の生前登録を始める予定だ。
脳の病気は不明な点が多く、主に患者が訴える症状で診断されているのが現状だ。脳バンクが整えば、患者の生前の症状と脳の状態を照らし合わすことができ、原因の解明や治療法の開発につながることが期待される。
脳バンクへの登録は、20歳以上なら誰でもできる。事前に、医師による診断と説明を受けたうえで、書面で本人と家族の同意の署名が必要になる。脳はホルマリンと凍結によって保存される。
国内には福島県立医大の精神疾患を対象にした脳バンクと国立精神・神経医療研究センター(東京都)のパーキンソン病を対象にしたバンクがあるが、遠方からの提供はコストもかかり難しかった。
脳バンク設立委員会メンバーで理化学研究所脳科学総合研究センターの加藤忠史チームリーダーは「脳の病気を克服するには、直接脳を見る研究が欠かせない」と話す。学会は独自に指針を作り、提供を求めることにしている。(宮島祐美)
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