2012年5月15日火曜日

心房細動(詳細解説)


心房細動(詳細解説)

心房細動の解説Q&A(詳細解説)

 公開日 2003.01.20 更新日2007.01.30  更新履歴   HOMEへ(メニューを表示)  メニューを隠す
 このページの解説レベルは、医学的な予備知識がない人には難しいことをお断りしておきます。
  治療方針一部には当院の考え方がはいっています。
参考にする場合の責任を当院は一切とりませんので、ご了承下さい。

心房細動の簡単な解説へ

01)不整脈でない正常な心臓の動きは?
02)不整脈はどんな方法で調べるのか(不整脈と心電図の関係)?
03)心房細動とはどんな病気か?
04)心房細動になるとなぜいけないのか?
05)心房細動にも種類があるか?
06)どんな人が心房細動になるのか? 類似:16)心房細動の背景にある疾患は何が多いか?
07)心房細動の原因、発作誘因は何か?
08)心房細動の心臓検査は何があるのか?
09)心房細動の治療はどうするのか?
10)心拍数(心室レート)を調節する薬剤について?

11)心房細動による脳梗塞の予防対策は?
12)ワーファリン内服中の注意点は?
13)心房細動は正常(洞調律)に戻す治療と、心房細動のまま心拍数コントロールする治療のどちらがよいのか?
14)なぜ心房細動は治りにくいのか?  2004 .4.28追加
15)頻拍誘発性心筋症とは?  2004 .4.28追加
16)心房細動の背景にある疾患は何が多いか? 2004 .5.8追加  類似:06)どんな人が心房細動になるのか?
17)心房細動患者の病歴のどこに注意が必要か? 2004 .5.8追加
18)心房細動の心臓外の検査には何があるのか? 2004 .5.8追加  参考:08)心房細動の心臓検査は何があるのか? 
19)心房細動の除細動を行う人と行わない人はどう選択するのか? 2004 .5.6追加  
20)心房細動の除細動の方法にはどのようなものがあるか? 2004 .5.6追加  
参考資料
○1)Heart Disease:A Textbook of Cardiovascular Medicine 6th Edition : Braunwald
◎2)心房細動治療(薬物)ガイドライン: Jpn Cir J65(supplV)2001
○3)不整脈 :medical practice  2002.vol19.no.12 2002.12.01発行
○4)不整脈への対応 :今月の治療 第10巻第7号 2002.6.20発行
○5) 国立循環器病情報サービス: 
◎6) 心房細動の治療と管理:井上 博、新 博次 医学書院2004.3.1発行第1版


 A:洞結節が 歩調取り(ペースメーカー)になって、心拍数を調節している。

 正常では右房と上大静脈の境にある洞結節(どうけっせつ)から心臓の筋肉を収縮させる電気信号が発生し、心臓全体に伝搬してゆく。洞結節のこの働きを歩調取り(ペースメーカー)と呼ぶ。よく聞くペースメーカーとは「人工の植え込み型ペースメーカー」のことである。通常、安静時には洞結節から1分間に50回から100回の電気信号をほぼ等間隔で発生する。運動時や興奮時などでは必要に応じて増加する。
 心房や心室の筋肉自体は、この電気信号を伝える電線の役割も果たしている。とくに伝導速度の速い筋肉があり、特殊心筋または刺激伝導系と呼ばれている(図1の緑)。
  電気信号は洞結節から心房全体に行き渡り、心房筋の収縮が始まる。
  次に心房から心室に電気信号が伝わる経路には、房室結節(ぼうしつけっせつ)という心房と心室の電気の伝達をする中継所がある。この中継所で約0.12〜0.20秒ほど遅れて心室に電気信号を伝えることにより、心房と心室の収縮が少しずれるようになっている。
  この時間のずれはとても大事である。心房の中にあった血液を心房の収縮により心室に送り出し、心室内が十分な血液で充満された時点で心室の収縮が始まるようにしているからである。心房は心室が全身に血液を送り出す働きを手伝っているのである。心房と心室の境界は電気を通さない繊維組織によって仕切られている。心房内にある房室結節と心室はヒス束という細い通路で連絡されている。この部分が傷害されて、電気信号が心室に全く伝わらなくなると、「完全房室ブロック」と呼ばれ、人工ペースメーカー植え込みの主要な病気の一つとなっている。


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Q2:不整脈はどんな方法で調べるのか(不整脈と心電図の関係)?

 A:心臓の筋肉が収縮する時には心筋から電気が発生する。この電気をとらえるのが心電図で す。  
  一つ一つの心筋細胞からでる電気は微弱であるが、心房全体または 右室や左室からでる電位は体表面で、0.1mV(心房)〜5mV(心室)に達し、心電図で記録できるほどの強さになる。下の心電図で、P波は心房が興奮して生じた電気の総和を示している。QRS複合体は右室と左室の興奮による電気の総和を示する。つまり、P波とQRS複合体がいつ生じているかによって、心房と心室の収縮のタイミングが分かるのである。また、それらの波形によって、正常な伝導路を通って、電気刺激が伝搬しているかどうかも分かる。 どんな不整脈がおきているかを調べるのに、心電図はなくてはならない検査である。

正常洞調律の心電図
特徴 ●規則正しい等間隔のP波、●P波に少し遅れたQRS複合体


 A:心房の筋肉が不規則・高頻度に収縮するために、心房全体が小刻みに震えている状態である。

 

 心房細動は、心房自体から1分間に約350〜600の頻度で不規則な電気信号が発生し、心房全体が細かくふるえ、心房のまとまった収縮と弛緩がなくなる不整脈(下図)である。
 心房細動は図2の様に、心房内の種々の場所で無秩序な電気的な旋回(リエントリー)が起こることが原因と考えられている。リエントリーとは直訳すれば「再入」、電気刺激が旋回し、再び刺激するために、一回の刺激で何度も電気的興奮を繰り返すのである。
 例えれば傷ついたレコードで同じところを何度も繰り返すようなものである。その引き金として心房性期外収縮や、心房や肺静脈から発生する異常な自動能(ペースメーカー)がある。 心房と心室の電気的中継所である房室結節の伝導が正常ならば心室の動く回数は多くなり、100〜160/分の頻拍になる。
  房室結節の電気の伝わりが悪くなると心室へ伝わる回数が減少して、脈が乱れはあるが心室の収縮頻度(=心拍数)は正常範囲となる。さらに房室結節の障害が強くなると、徐脈性の心房細動となる。
 つまり、心房細動では房室結節の働き次第で、脈拍が多くなったり、少なくなったりするのである。

 

 

 

心房細動の心電図の特徴(V1誘導)
 ●心房収縮を示すP波の消失、●不規則で、小刻みな基線のゆれ(心房細動波=f波)、●QRS複合体と次のQRS複合体の間隔が一定でない。
心房細動では基線のゆれは、ほとんど見られないことも少なくありません。このときには、P波がないこととQRS複合体と次のQRS複合体の間隔が一定でないことで心房細動と診断する。

 

 

 

 

 

 

 

 


 A:心臓のポンプとしての働きが低下する。また、脳梗塞などを起こしやすくなる。
 ●心房細動のために心房収縮がなくなり、拡張期に心室が十分血液で満たされないために心臓の働きは低下 し、心臓から出る血液量は約2割ほど減少すると言われている。 
 ●また、心房には心室が収縮し、小さくなるときに、逆に大きくなり血液を一時的に蓄え、次の心室充満のときに役立てるという「一時貯留機能(リザーバ ー機能)」があるが、心房細動ではこの働きが低下する。
 ●心房細動では心房から心室への伝導が正常ならたくさんの電気信号が心室へ伝わり、心臓の動く回数が多くなる。
あまりに 頻拍になると心臓の働きが低下し、十分な血液を送り出せなくなり、心不全になる。通常成人では、特に心臓に病気を持たない人でも、130/分以上では息切れや胸苦しさなどの症状を起こしやすくなる。頻拍が何日も続くと心室の機能が正常な人でも心不全になる(頻拍誘発性心筋症)。

図3 左房・左心耳の位置
心臓は弁や隔壁によって4つの部屋〔右心房、右心室、左心房、左心室)に分かれます。正面から見ると4つはかなり重なりあっている。
右房と左房の位置関係は
右房=右前、左房=後、
右室と左室の位置関係は
右室=右前、左室=左後
となっている。
左心耳は左房の左端から前方への出っ張りである(画面では左右逆)

胸部レントゲン写真(正面)  

●心房細動では心臓のポンプとしての働きが低下する以外にも、もう一 つ大きな問題がある。左房にはその左端に左心耳という出っ張りがある。正常な洞調律では、左心耳も収縮と弛緩を繰り返している。心房細動になると心房内の内圧が高まり、心房・心耳は拡大し、心房の収縮と弛緩がなくなるため、左房(特に左心耳)内の血液の流れに「よどみ」が生じる
 血液の流れが緩やかになるとたとえ心臓内であっても、血液の塊(血栓)が生じやすくなる。特に左心耳内の血液のよどみは高度で、血栓ができやすい場所である。
 左心耳に形成された血栓は、時々流れ出し、また形成されるということを繰り返する
左房が拡大するほど、また左心耳内に血栓を認める人左心耳内の血液のよどみが強い人ほど脳梗塞が多いと報告されている。
  高齢者では、心房細動でなくとも多発性の脳梗塞を認めるが、 心房細動の人の脳のCT検査やMR検査を行うとほとんどの人で多発性の脳梗塞を認める。脳梗塞の1/4〜1/3が心臓由来(大部分が心房細動)と言われている。さらに、一過性の心房細動は見落とされている可能性があるので、心房細動が原因となる脳梗塞は、実際にはもっと高頻度であろうと思われる。 また、心房細動に伴う脳梗塞は動脈硬化による脳梗塞よりも重症例が多いとされている。 心房細動による脳梗塞は、その原因が持続していることから、何回でも再発するため、確実な予防が必要である

単純な心房細動(孤立性心房細動)を1とした場合の塞栓症(おもに脳梗塞)の 頻度(倍率)

心房細動を合併した僧帽弁狭窄症では、年間4-6%が動脈塞栓を起こする。

心臓弁膜のない心房細動でも一過性脳虚血や脳卒中の既往があると22.5倍、糖尿病があると1.7倍、高血圧があると1.6倍、10歳高齢になる毎に 1.4倍となる。

心不全または虚血性心疾患があると3倍になる。

また、左室拡大や左房拡大があるとなりやすい。


犬のlarengeal麻痺

しかし、60もしくは65歳以下の比較的若年で、心エコー検査でも異常のない人(つまり、構造的な心臓病のない人)は、塞栓症の年間発生率は 1%未満と極めてリスクが少ない。

僧帽弁狭窄症は、単純な心房細動の塞栓症頻度を年間0.94 % と仮定したときのおよその数値。  

A:心房細動そのものは同じであるが、付随する状態によって分けると治療方法をきめる時の参考になる。 「一時的」と「持続性(さらに細かく、除細動しても治らないもの、と除細動で 洞調律に復帰するもの)」、「脈拍数が多いもの」と「脈拍数が少ないもの」、「夜間除脈が高度のもの」と「夜間除脈が軽度のもの」、「糖尿病、高血圧、心臓病に合併したもの」と「合併症のないもの」、「初回発作」と「繰り返して起こった発作」、 「脳梗塞の既往があるもの」と「脳梗塞の既往がないもの」、「塞栓症リスクが高いもの」と「塞栓症リスクが低いもの」などなど心房細動の治療方針を決定する際に考慮すべき条件は多数ある。
 A:心臓の負担が増えると心房細動になりやすくなる。また、加齢にともなって増加する。
 
心房細動は高齢者では、よく見かける不整脈である。その頻度は対象となる調査群でばらつきがあり、正確には分かっていない。
  米国の調査では60歳以上の1%、 70歳以上の5%である。男性は女性よりも多い。65歳以上の顕性の心血管病の9.1%、不顕性の心血管病の4.6%、心血管病のない人の1.6%に心房細動がみられる。高血圧、虚血性心疾患、心不全があると心房細動の頻度は著しく増加する。
明らかな心血管病(65歳以上)がある人では

9.1%

※原文=clinical
軽微な心血管病(65歳以上)がある人では

4.6%

※原文=subclinical
心血管病のない人(65歳以上)がある人では

1.6%

 

米国の調査(Braunwaldより)


 A:あらゆる心臓病や心房の機械的な負担増加は、心房細動の原因となる。また、血液・ホル=モン・電解質・低酸素血症・自律神経調節異常などの心臓外の異常も原因となる。  心房細動の原因に甲状腺機能亢進症が隠れていることがあることは有名である。
心房細動は心臓病はもちろん、心臓外の病気でも心房に負担をかけると起こりやすくなるので、心臓病以外の異常にも注意を払う必要がある。
心臓疾患では、弁膜症(特に僧帽弁膜疾患)、肥大型心筋症、拡張型心筋症、虚血性心疾患、高血圧性心疾患、心膜炎、種々の原因による心不全などがある。
 心臓以外の疾患では、甲状腺機能亢進症、肺塞栓症、高度の貧血、動静脈シャント、発熱疾患、低酸素血症、低カリウム血症などがある。
  生活習慣では、睡眠不足によって、心房細動発作が誘発されることがよくある。他には運動、アルコール(なりやすい人は少量でも誘発)、過剰のカフェイン、肥満、喫煙などが心房細動を誘発する原因となっている。

A:心房際動の治療方針決定のために最低必要な心臓の検査は、心電図(24時間連続心電図)、胸部レントゲン写真、心エコー検査などである。
 
不整脈以外の心疾患を合併していないか、心不全を合併していないか診断する必要がある。

●心電図
 心房細動の診断には心電図が不可欠である。また、心房細動以外の心臓病の診断の手がかりを与えてくれる。
●24時間連続心電図
 24時間連続心電図は、おもに一日の心拍数の推移をみる。高齢者では伝導障害の合併がしばしばあり、「頻拍と除脈を合併した心房細動(洞機能不全症候群のひとつ)」が少なくない。高齢者の場合、日中の心拍数のみで心拍数をコントロールしていたのでは、夜間の高度の除脈を助長してしまう。ま た、一時的に正常洞調律に復帰していないかみる。
●胸部レントゲン写真
 おもに、心拡大や肺うっ血など心不全の有無をみる。
●心エコー/ドップラー検査
 心臓の構造的な異常の有無を調べるのに不可欠な検査である。心臓の異常の種類・程度の評価だけでなく、心臓の機能評価(心不全の評価)、治療の効果判定にも大変役立つ。心房細動の人は、治療方針を決めるために、治療開始時に最低一度はこの検査を受けておく必要がある。その後も数年に一度は僧帽弁逆流、三尖弁逆流、左室と左房の拡大を定期的に調べると、心臓の状態にあった治療方針が立てられる。ただし、このレベルになると循環器科の看板を掲げている医師なら誰でもできるわけではない。


A:●原因・誘因の排除、●心室レートのコントロール、●再発の予防、●塞栓症の予防4つの重要項目がある。
●原因・誘発因子の排除
 心房細動の原因に甲状腺機能亢進症が隠れていることがあることは有名である。心房細動は心房に負担をかけ続けると起こるので、心臓病はもちろん、心臓に負担をかける心臓外の病気でも起こる。代表的なものとして、甲状腺機能亢進症、肺塞栓症、脈拍数や心拍出量を増加させる疾患(高度の貧血、動静脈短絡、発熱疾患)、低酸素血症、低カリウム血症などがある。また、生活習慣では極度の不眠や夜更かしは心房細動発作の強い誘発要因である。過度の運動、アルコール、カフェインも心房細動を誘発する。肥満・喫煙もよくない。以上の 原因や誘発因子の治療と排除がもっとも根本的な治療となる。
●心室収縮頻度(心室レート)のコントロール
 心房細動では心房はあちこちで300/分以上の高頻度の心房筋の収縮がバラバラにおこり、心房全体のまとまった収縮がなくなる。通常、心臓の心拍数という場合は、心房の収縮頻度ではなく、心室の収縮頻度を言う。 心房から心室への電気の伝導が正常の場合、300/分が全部心室に伝わるのではなく、およそ100〜160/分のが心室に伝わり、発作時のの心房細動の心拍数はこれくらいになる。この程度の頻拍であっても長く続くと心臓の構造的な異常がなくても心不全になる。このため、薬物を使って適切な心拍数まで低下させる。
 目標とする心拍数は、安静時では60-90/分くらい(米国の教科書では60-80/分)である。軽度な労作で100/分を超さない。軽度から中等度労作時 で110〜120/分以下をおよその目安とする。高齢者では、電気の伝導障害がおこり、心拍数が多くないことがある。この場合には心拍数を低下させる薬剤はむしろ有害であるので、心拍数を減らす薬は使わない。心拍数を低下させる薬は別のところで解説する。

●心房細動の再発予防
 発作の原因や誘発因子が排除できる場合は、抗不整脈剤を内服し続けるよりも、原因の治療が望ましいのではあるが、薬物を使わなければコントロールできない場合も多いのが現状である。その場合、運動により誘発されるなら、激しい運動は控え、薬剤にはβ遮断薬を使う。
 心不全がある場合には心不全改善治療を優先する
。薬剤には利尿剤、ACE阻害剤、抗アルドステロン剤、一部β遮断薬など用いる。低カリウム血症があれば改善するようにする。カリウムの多い食事、カリウム製剤、抗アルドステロン剤などを使う。
 以上により予防できない心房細動の再発予防には抗不整脈剤を使用するが、投薬前に心機能をエコーなどで評価しておく必要がある。抗不整脈剤を選ぶ際に、心機能障害の程度が薬の選択の参考になるからである。

心房細動予防薬 :心房細動治療(薬物)ガイドライン Jpn Cir J65(supplV)2001より
 

心機能正常

心機能軽度低下または肥大型心筋症

心機能中等度低下

第一選択

K遮断中等度+Na遮断slow+M2遮断
Na遮断slow


医療GAの大学と摂食障害
K遮断中等度+Na遮断intermediate K遮断中等度+Na遮断intermediate
Na遮断intermediate
(β遮断作用のある薬剤を除く)
(商品名) リスモダン、シベノール、サンリズム アミサリン、キニジン アミサリン、キニジン、アスペノン
  タンボコール、ピメノール    
第二選択
K遮断中等度+Na遮断intermediate
K遮断中等度以上
Na遮断intermediate
K遮断中等度+Na遮断slow
Na遮断slowまたはK遮断中等度以上
Na遮断intermediate
 
(商品名) アミサリン、キニジン リスモダン、シベノール、サンリズム アンカロン
  プロノン、アスペノン タンボコール、ピメノール  
    ベプリコール、プロノン、アスペノン  
第三選択      
(商品名)   アンカロン  

 A:最近はジギタリスだけでなく、カルシウム拮抗剤やβ遮断薬も単独または併用されるようになってきました。
 
およそ100/分以上の頻拍が長く続くと、心臓への負担が増える。このため、適切な心拍数になるよう薬物が使われる。心拍数(心室レート)コントロール薬剤として、ジギタリス(迷走神経緊張作用)は従来からよく使われている代表的な薬剤である。ジギタリスは軽度ながら心不全の症状を軽減する作用があり、左室収縮障害をともなった頻拍性の心房細動の心拍数調節にはお勧めである。しかし、長期的な心不全の経過改善や寿命を延ばす効果(予後改善効果)はジギタリスには期待できない。また、ジギタリスだけでは労作時の心拍数抑制は不十分である。
  当院でよく使われるジギタリス製剤には、ジゴシン(ジゴキシンを含有 )0.25mg錠、ラニラピッド錠(メチルジゴキシン)、ジゴシン0.125mg錠である。ラニラピッド錠は体内で、ジゴシンと同じ薬物に変化し、その効果はジゴシン(0.25mg)錠の約2/3である。高齢者では、ジゴシン(0.25mg)1錠では多すぎることが少なくないので、少な目の量を維持量として使うようにする。維持量の決定の指標は、主にジゴキシンの血中濃度よりも心拍数である。ジゴシン血中濃度が治療目安濃度範囲以下でも、心拍数が良好に維持できていれば増量する必要はない。除脈とともに食欲不振などのジギタリス過剰や中毒が疑われるときには血中濃度を調べる。
 カルシウム拮抗剤やβ遮断薬による心拍数コントロールや併用療法がジギタリスに勝るとの報告がある(米国心臓病学会)。β(ベータ)遮断薬(交感神経刺激抑制作用)はおもに日中(活動時)の心拍数抑制を狙って処方する。カルシウム拮抗剤の一部(ヘルベッサーなど)はジギタリスに比べて効果発現時間が短く、夜間徐脈を引き起こしにくいことを利用して使う。少量のジギタリスとβ(ベータ)遮断薬またはジギタリスとカルシウム拮抗剤の併用はよく使われる。
 なお、β遮断薬やヘルベッサーなどは心臓の収縮力を低下させるので、左室心筋障害の強い人に使う場合は注意が必要である。逆説的であるが、左室心筋障害がある人には、少量のβ遮断薬(商品名:アーチスト)がお勧めである。ただし、使用に当たっては、原則的に循環器専門医が行うべきでしょう。なお、どの治療薬がよいかは医師の間で完全に意見が一致しているわけではない。

慢性期心房細動の心拍数コントロール

ジギタリス (商品名) ジゴシン、ラニラピッド
β遮断薬 (商品名) アーチスト、メインテート、セロケンなど
カルシウム拮抗剤 (商品名) ヘルベッサー、ワソラン、ベプリコール

 A:動脈塞栓のリスクの高い人には、ワーファリン治療が原則である。
 日本ではその管理の煩わしさと出血性の副作用を恐れるあまり、残念ながらワーファリン療法を手がけない医師が多いのが日本の現状である。ワーファリンの血栓塞栓症予防効果が他の薬剤よりもはるかに優れていることは、多くの大規模試験で確認されている。血栓塞栓の危険性の高い心房細動の患者を診る循環器専門医以外の臨床医も、専門医にアドバイスを受けて、ワーファリン療法を熟知し、禁忌でないかぎり積極的にワーファリン療法をおこなうことを勧める。ただし、自動車の運転と同じように、常に注意しながら使う必要がある。
 また、ワーファリンの効果を評価するのに、最近のすべての大規模研究では「PT-INR」検査が採用されている。従来使われてきた「トロンボテスト」は採用されていません。まだトロンボテストを利用している臨床医は検査方法をPT-INRに変えるべきです。

PT-INR目標値は、70歳未満では INR2.0〜3.0とする。
70歳以上では 頭蓋内出血の危険性が高まるため、INR1.6〜2.6
になるように少量のワーファリンを使う。
その場合の塞栓症予防効果は、INR 2.0〜3.0とした場合の約80%とされている。ただし、塞栓症の危険性により、目標値の変更は当然ありえます。 当院の経験では、INR2.0くらいでは脳梗塞になる人が時々あり、危険性の高い人は2.5以上がよいと考える。逆に、INR4-5くらいと効き過ぎになっているときは、2-3日ほどワーファリンを中止し、減量した量で再開すれば大丈夫である。

 血栓塞栓の危険性に影響する因子は、年齢、血栓塞栓の既往の有無、心疾患の有無(弁膜症、虚血性心疾患、心不全、左房拡大、左室拡大)、高血圧の有無、糖尿病の有無などである。低リスク群には、アスピリン、アスピリンが使えないときはパナルジンなどの血小板凝集抑制剤を使うか、もしくは塞栓症の予防薬は使う必要がない
 これらの血小板凝集抑制剤の予防効果は、動脈塞栓を約20%減少させる程度でワーファリンに比べて強くない。効果がなかったとする報告すらある。中等度以上の危険群ではワーファリンが勧められる。ワーファリンは血栓塞栓を約50〜60%減少させるとの報告があるが、高危険群だけできちんと管理すると比較するともっと効果があるようだと当院では考えている。

弁膜症のない心房細動患者における一次予防のためのリ スク層別化(米国胸部内科学会)

血栓塞栓の危険性

低い

中等度

高い

年齢

年齢64歳以下

年齢65〜75歳

76歳以上

危険因子

危険因子なし

糖尿病

高血圧歴あり

冠動脈疾患

左心不全・左室機能不全あり

甲状腺中毒症

中等度危険因子が2個以上

弁膜症のない心房細動患者における治療薬選択の目安 (日本循環器学会)

血栓塞栓の危険因子:
●一過性脳虚血または脳梗塞の既往、●高血圧、●糖尿病、●冠動脈疾患、● 心不全

危険因子1つ以上あり

危険因子なし

76歳以上

59歳以下

60〜75歳

76歳以上

ワーファリン内服

抗血栓薬不要

抗血小板薬

ワーファリン内服

69歳以下INR2.0〜3.0

少量のアスピリン
75〜325mg/日内服※1

少量のアスピリン
75〜325mg/日内服※1

69歳以下INR2.0〜3.0 

70歳以上INR1.6〜2.6

またはパナルジン※2
200mg/日 内服

70歳以上INR1.6〜2.6

70歳以上INR1.6〜2.6


病気で食欲不振、過食症情報

※1 この治療の目安が発表された後(2006年頃?)に、少量のアスピリンは心房細動の塞栓予防に使うのは、消化管出血などの副作用を含めるとむしろ不利であるとの発表があった。よって、当院では少量のアスピリンを心房細動の合併症予防に使うことは勧めていない。2007.1月追加
※2 パナルジンは少量のアスピリンよりも強い抗血小板作用があるが、血栓塞栓予防効果はアスピリンとほとんど差がありません。慢性と発作性心房細動の比較において、塞栓症の発生頻度には統計的な差異が認められていません。薬剤の価格はパナルジンがはるかに高く、安全性もアスピリンに勝るわけではありません。なんとなく「アスピリンよりパナルジンのほうが、よく効くだろう」と、パナルジンを服用させるのは無意味である。
上には書いてありませんが、心臓弁膜症、肥大型心筋症、 拡張型心筋症、左房拡大(心エコーで50mm以上)、除脈頻脈発作などの心疾患は血栓塞栓症の強い危険因子である。これらに合併した心房細動は、上図の限りではありません。積極的にワーファリンを使うべきである。


 A:ワーファリンはとてもよく効く薬であるが、それだけに多くの注意点がある。
 ワーファリンは抗凝固剤と呼ばれ、心臓や血管内で血液が固まるのを予防する。 心房細動(脳梗塞予防)以外にも心臓弁膜症、肺塞栓症や種々の血栓症、人工心臓弁などの血栓予防にも使われる。ワーファリンは心房細動による脳梗塞を約1/3に減らす。

【食事の注意点】

■納豆は少量でも禁止である。  ビタミンKはワーファリンの効果をなくす。多量のビタミン Kを含む納豆、クロレラ、青汁、抹茶は少量でも摂取禁止である。
納豆は発酵により合成されたビタミンKを多量に含んでいる。週に1回でも食べてはいけない。 納豆はダメでも大豆、豆腐、味噌、甘納豆は影響ない。発酵といってもヨーグルトなどの乳酸菌発酵は影響はない。
 
ブロッコリー、ほうれん草、トマト、アスパラガス、キャベツ、レタス、海草類 などもビタミンKを多く含んでいるものとして知られているが、納豆に比べて 一食あたりの摂取ビタミンK量はずっと少ないので普通の量なら気にする必要はない。
 
アルコールは飲み過ぎるとワーファリンの効果を強めるが、少量なら問題ない。


【ワーファリンの効き過ぎの症状の注意】
 
ワーファリンは、一人一人の患者さんに適した量を指示しているが、ときにワーファリンの効果が強く現れて、出血することがある。次のような徴候が現れたら、医師に連絡する必要がある。
皮膚の内出血が大きく、やたら多い(打撲の記憶がないのに腕や脚に大きな青あざができる)。
  小さなものが腕に1〜2カ所でるくらいなら、多くの場合は心配いらない。

○ 赤色またはどろどろしたコールタールのような黒色便顔面蒼白、ふらつ き、むかつき食欲不振 など
 胃・腸からの出血による症状、貧血症状の可能性がある。

○ 血尿(赤色またはコーラ色の尿)○鼻出血  ○歯ぐきの出血  ○傷口からの出血の止まりが悪い  ○月経過多  ○血痰
  これらは軽度ならワーファリンの効き過ぎを示す症状ではない。

高齢者で、元気がなくなる、食欲がなくなる、ぼけが進行する、足腰が立たなくなるなど1〜4週間で進行した。
頭蓋内出血(慢性硬膜下血腫)可能がある。主治医に連絡し、頭部CT検査を受けましょう。
以上の所見がすべてワーファリンの効き過ぎを示すとは限らないが、上記の症状に日頃から注意しましょう。
どうも変だと思ったら、主治医に相談しましょう。


【生活上の注意】
■ 抜歯の際には医師に相談する
小手術では低用量のワーファリンなら必ずしもワーファリンを中止する必要がないとも言われている。
しかし、実際は抜歯、怪我、小手術でも血のとまりが悪くなるのを嫌い、この薬を一時中止することが多い。
必ず歯科担当医に「ワーファリン内服中」と伝えて下さい。
緊急時には、ワーファリンを早期に無効にするビタミンK剤を内服または点滴する。
参考までに、納豆を食べても早期にワーファリンの効力が弱まる。
ワーファリンは飲み始めて効果が最大になるまでに、3〜4日かかる。逆に、中止しても2〜3日は効いている。完全に効果がなくなるには、約1週間かかる。
■ 風邪などで2〜3日食事量が激減した時は、薬が効きすぎになりやすい。

 ワーファリンは食事の量や内容によって、その効果が大きく変化する。風邪などで強い食欲不振が2日以上続くと、効きすぎになることが多いので注意する。 極端に食事摂取量が低下した場合には、主治医に相談の上、一時薬を減量または中止する。風邪薬でワーファリンの効き過ぎが起こるとの記載があるが、食欲低下がない場合の3-4日分の風邪薬は通常問題ないと当院は考えている。
■ 下痢が続いた時は、薬が効きすぎになりやすい。  下痢が2日以上続いたときは、ワーファリンは中止して、医師に相談して下さい 。
■ ワーファリンはいろいろな薬の影響を受けやすい。他医で薬をもらったら、主治医に連絡しておきましょう。
■ 定期的に薬の効き具合を調べることが大事である。 しっかりとしたワーファリンの効果を期待して使う場合は、通常月に1回の血液検査(PT-INR)が必要である。これができない場合には副作用の危険性が高く、ワーファリンは使用できない。特に高齢者は、頭蓋内出血が起こりやすいので注意する。当院では、1-2カ月毎のPT-INR検査を行っている。
■ 飲み忘れたら  
1〜2回の飲み忘れの影響はあまりないので、指示された量を再開して下さい。内服時間は朝または夕方でも結構です。
 食事の前後どちらでも大きな差はない。
他の病院や薬局で薬をもらう時には、必ず「ワーファリンを飲んでいる。」と 医師や薬剤師に告げて下さい。

 
ワーファリンは他の薬剤との相互作用が多い薬である。他院で薬をもらった時は、必ず医師や薬剤師に相互作用がないか、尋ねましょう。
ただし、「風邪薬や鎮痛剤はワーファリンの作用を強めるので注意」と言われているが、私個人の経験からすると食欲がしっかりしていれば、3〜4日分の「感冒薬や抗生剤」を服用してもほとんどトラブルはない
■ 打撲や打ち身などをしやすい運動は避けて下さい。
■ 転倒による頭部打撲は頭蓋内出血の原因になる。よく転倒する患者さんは、頭蓋内出血の症状に注意下さい。
■ 刃物などを使用する時(ひげ剃りなど)は、出血しないよう注意して下さい。
■ ワーファリンは、胎児に影響をおよぼすことがある。妊娠を希望される方は医師に御相談下さい。

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Q13:心房細動は正常(洞調律)に戻す治療と、心房細動のまま心拍数コントロールする治療のどちらがよいのか?

 A:2002年発表の結果では生命予後では差がない。脳梗塞のなりやすさでは、ワーファリンを使っているかどうかの違いのほうが大きな要素である。
 心房細動に対して「できるだけ洞調律を維持するリズムコントロール」と心房細動のまま「心拍数をコントロールする」の2つの治療のうちどちらが優れているかを総死亡率を基準にした6年にわたる大規模前向き調査(AFFIRM試験)が行われ、2002年に暮れに発表があった。
 その結果、心拍数コントロール群のほうが死亡率が低い傾向にあったが、統計的な差はなく、抗凝固療法が維持されていれば同等の治療効果と結論された。しかし、治療の効果を死亡率だけで判断するのは乱暴である。生活の質(QOL)の観点が抜けている。また、AFFIRM試験は心房細動の持続の有無による区別がなされていない問題点もある。この点を踏まえて、日本ではあらたな研究調査(J-RHYTHM)が行われようとしている 。
参考資料
日本臨床内科医会会誌 vol.17,No.5 Mar.10,2003

 類似の質問:「なぜ心房細動は慢性化するのか?」、「なぜ上室性頻拍や心房粗動は、心房細動に移行するのか?」 A:心房細動や心房の頻拍が持続すると、心房筋に変化(電気生理学的、可逆的変化)が生じ、これがさらに心房細動になりやすくする。さらに長期間、心房細動が持続すると心房筋に元に戻らない構造的な変化(不可逆的変化)が生じるため、心房細動が正常洞調律に復帰しなくなる。
 心房細動や他の原因による頻拍により、心房筋の収縮が高頻度に生じると心房筋内のカルシウムが過剰になったり、心房筋の仕事量増加による相対的酸素供給不足(心房筋の虚血)などの原因により、心房筋の傷害が生じる。短期間ならもとに戻るが、長期間に及ぶと傷害はもとに戻らなくなる。このためできるだけ早期の除細動が勧められる。
--- 短期間の頻拍の影響 ----
  実験的に、山羊の心房をペースメーカーという一定の間隔で電気刺激を発生する器械を使って、電気的に高頻度に刺激すると、心房細動が生じやすくなり、約1週間で持続性の心房細動になったと報告されている。つまり、心房細動は長く続くと戻りにくくなる。これは、心房細動が持続すると心房筋に電気生理学的な変化(電気的リモデリング)を生じるためと説明されている。
 実験では、●電気刺激24時間で心房細動は誘発されやすくなる。●電気的リモデリングは断続的な電気刺激を中止すると1週間で正常化する。●電気的リモデリングはカルシウム過負荷が原因であり、心房筋の虚血や心筋の伸展は関与していない。●心房細動が長期間(9-23週間)持続すると、心房筋に構造的な変化がでる(・筋原線維の消失、・グリコーゲンの増加、・ミトコンドリアの形態変化、・筋小胞体の断裂)。
 実験では、心房の高頻度刺激の2日目から心房筋の収縮力の低下が見られるため、心房細動の持続時間が短くても左房内に血栓が形成されやすいと考えられる。

---長期間の頻拍の影響----
 長期間心房細動が持続したり、心不全では心房全体の高度の間質線維化が起こる。ACE阻害薬アンギオテンシンII阻害薬(ARB)アルドステロン拮抗薬を使えば、間質線維化が抑制できるとの報告がある。  
---本院のコメント---
 心不全に合併した発作性心房細動の発作予防には、心不全のコントロールが大切である。ACE阻害薬、ARB、アルドステロン拮抗薬を抗不整脈剤と併用すると心房細動発作を抑制しやすくなる。ただし、その効果は数ヶ月以上かかり、すぐには出ない。

参考資料
6) 心房細動の治療と管理:井上 博、新 博次 医学書院2004.3.1発行第1版、p19-23、「電気的リモデリングとは何でしょうか?」


2004 .4.28記
 A:頻拍誘発性心筋症(tachycardia induced cardiomyopathy)とは、頻拍が長い期間続き、心臓の拡大と収縮力の低下が生じる病態である。
 心房細動に限らず、頻拍が続くと心臓が徐々に拡大し、心筋の動きが低下してゆく。この状態の心臓を「頻拍誘発性心筋症(tachycardia induced cardiomyopathy)」と呼ぶ。動物実験では高頻度ペーシング(電気刺激によって、心臓の動く回数を増加させる方法)開始後24時間以内に発生し、その後3-5週間に渡り悪化してゆく。高頻度刺激停止後には48時間以内に血行動態は改善を示し、1-2週間で心臓の動き(左室駆出率)は正常に戻ったと報告されている。
--- 当院のコメント ---
  このホームページで紹介された「心房性頻拍」は「頻拍誘発性心筋症」にあたる。「急性心筋炎症例」の心筋障害の一部は同様に頻拍によるものと考えられる。
 一般に中年以降では心拍数130/分以上で、動悸・息切れ・呼吸困難などの自覚症状が強くでる。心房性頻拍の症例も130前後が数年続き、心不全となった。頻拍から心不全になると、左室や右室の拡大、弁輪拡大、乳頭筋収縮不全などにより、軽症〜重症の三尖弁閉鎖不全が生じる。 軽症の僧帽弁閉鎖不全症も生じることがある。三尖弁の障害が僧帽弁よりも重症になりやすいのは、右室や右房の方が拡がりやすいためである(high compliance)。頻拍抑制と心不全の改善が早期に得られれば、これらは消失する。以前に心拍数160以上の心房細動が1週間以上未治療で、受診時に重症三尖弁閉鎖不全と軽症僧帽弁閉鎖不全があった症例が、正常洞調律にコントロールされると弁膜逆流が全く消失した症例を経験している。
  治療のために心拍数を減らす目的では、よくβ遮断薬(心不全症例には、アーチストがお勧め)が使われる。このとき、肺うっ血などの心不全が利尿剤で十分にコントロールされていないときにβ遮断薬を通常量使うとかえって心不全を悪化させる可能性が高いことに注意する。もっとも、このあたりの治療は循環器専門医にまかせるべきです。

参考資料
6) 心房細動の治療と管理:井上 博、新 博次 医学書院2004.3.1発行第1版、p24-27、「心房細動があると、臨床上、何が問題となるか?」

2004 .4.28記


 A:心房が大きくなるような病態(圧負荷、容量負荷の増大)、心房筋の繊維化をおこす病態が心房細動を発症させる。
 具体的には、高血圧症、僧帽弁弁膜症、三尖弁弁膜症、虚血性心疾患、甲状腺機能亢進症などがある。発作性心房細動ではそれらの合併症がないこと(孤立性心房細動)が多い。他方、慢性の心房細動では弁膜症が多い。なお、虚血性心疾患に合併した心房細動は日本では少ないが、海外では多い。なお、20年以上前に比べて、近年はリウマチ性弁膜症を背景とした心房細動は激減している。
心房細動の基礎疾患(不整脈薬物療法研究会共同調査)
1991.1月-1993.12月、塞栓症の既往の内1819例、男性1183例
 

発作性(740例中)

慢性(1079例中)

初診時年齢

56歳

59歳

孤立性

34.1%

18.9%

高血圧

27.8%

27.3%

虚血性心疾患

12.2%

11.9%

僧帽弁疾患

8.5%

36.5%

心筋症

6.4%

14.4%

先天性

2.0%

2.6%

洞不全症候群

10.3%

4.8%

6) 心房細動の治療と管理:井上 博、新 博次 医学書院2004.3.1発行第1版、p7-9、

2004 .05.08記


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Q17:心房細動患者の病歴のどこに注意を払うべきか?   

 A:発作の誘発因子、日常生活への影響の度合い、発作の長さ、発作の誘発因子の確認が必要。
 息切れや動悸などの自覚症状の種類と程度、一時的または後遺症を残す手足の麻痺や言語障害などの脳塞栓症状、日常生活に及ぼす影響、発症時期とその後の経過、誘因の有無(たとえば、「飲酒の後に生じるか」・「寝不足の時に生じるか」・「過労気味の時に生じるか」・「運動の後に生じるか」・「カフェインを含む飲料で生じるか」)などに注意を払う。
【心房細動発作の確認】
 診察時には心房細動でなくとも、病歴から発作性心房細動が疑われる場合には、ホルター心電図検査が役に立つ。また、ホルター心電図検査は無症状の心房細動発作もとらえることができる。無症状の心房細動発作は、症状のある発作の約12倍の頻度であるという。ただし、心房細動発作の頻度が低い場合にはホルター心電図でも発作をとらえることができない場合も少なくないので、一回の検査のみでは、発作性心房細動は否定できない。できるだけ、頻回の発作が起きているときに検査する必要がある。運動することにより誘発される心房細動(運動誘発性心房細動)では、運動負荷試験で心房細動発作をとらえることができることがある。

6) 心房細動の治療と管理:井上 博、新 博次 医学書院2004.3.1発行第1版、p28-30

2004 .05.08記

 A:必要に応じて、血液検査や頭部CTまたは頭部MRI検査を行う。
 すべての心房細動患者に必要な検査ではありませんが、以下の心臓外の検査も重要である。
●甲状腺機能
 甲状腺機能亢進症はしばしば心房細動の原因になる。甲状腺機能低下症も時に心房細動を合併する。痩せてる人や頻拍性の心房細動では一度は調べておく必要がある。血液検査でTSHとFreeT3を調べればよいが、可能性が低い場合には最低限TSHを調べるとよい。これだけで、甲状腺機能亢進と低下の両方の有無が分かる。
● 頭部CTまたはMRI検査
 病歴や身体所見から脳梗塞が疑わしい場合は脳梗塞の有無や程度評価を行う。
●凝血分子マーカー
 塞栓症の危険性の評価として利用できる。一度できた血栓は、酵素の働きにより再び溶かされる。「d-dimer:ディーダイマー」は、そのときにできる血栓の分解産物の一種で、血液中に放出される。左房内血栓の検出に優れている経食道心エコー図で調べた左房内血栓の有無と血液中のd-dimerを比較検討した結果が報告されている。
  左房内血栓がある症例の89%でd-dimerが0.6μg/ml以上であった(感度89%)。d-dimerが0.6μg/ml以上であった人の75%に血栓を認めた(特異度75%)。d-dimerが0.6μg/ml未満では、98%が左房内血栓がなかった。つまり、d-dimerが0.6μg/ml未満なら、高い信頼度で左房内血栓の存在を否定できると言っている。

6) 心房細動の治療と管理:井上 博、新 博次 医学書院2004.3.1発行第1版、p28-30
2004 .05.08記


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Q19:心房細動の除細動を行う人と行わない人はどう選択するのか? 

 A:心房細動をなくすことを「心房細動の除細動」と言う。●必要性、●安全性、●効果の持続性の3つを考慮して行う。
 すべての心房細動患者を洞調律に戻すことはしない。●1)除細動によって、血行動態(心拍出量や血圧など)の改善、自覚症状の改善、塞栓症の予防が期待できること、●2)安全であること(塞栓の危険性がない、ジギタリス中毒でない、除細動後に高度の除脈が予想される洞機能不全症候群でない、除脈を引き起こす房室ブロックがない、薬物による除細動の時に抗不整脈薬の副作用の既往がない)、●3)洞調律になったとして、洞調律を維持できると期待できる。以上の3点を考慮して、個々の患者の除細動を試みる。
 また、一見、心房細動を洞調律に保つことにより、塞栓症の予防にも役立ちそうであるが、調査では洞調律が維持できても塞栓症の発生は、それほど減少しない。たとえ、洞調律になっても塞栓症になりやすいので、除細動を行わない場合と同じように抗凝固療法が必要である。以上から、心拍数の調整がうまく行えており、心機能低下や自覚症状の乏しい例では積極的な除細動の必要性は低い

除細動が好ましくない場合とは
   ●除細動に伴う危険性が高い場合、もっと具体的には、
1)塞栓の合併症が起こりやすい場合
  心房細動の状態や除細動の直後は心房の動きが低下しているので、左房内(特に左心耳)に血の塊(血栓)ができやすい。心房収縮が回復してくると形成された血栓がはがれやすくなり、血栓が血流に乗って脳の血管に詰まりやすい(脳塞栓症)。 このため、経食道エコー図で左房内に飛びやすい血栓(器質化していない血栓)がある場合や、心房細動発症後48時間過ぎているが、抗凝固療法が不十分な場合は、特に塞栓症の危険性が高いので、十分な抗凝固療法を行った後に除細動を行う。
2)除脈が起こりやすい場合
  ホルター心電図などで、除脈を認める症例では除細動後に心停止が生じる可能性が高く、無理矢理除細動を行わない。
3)ジギタリス中毒がある場合
  重篤な不整脈を生じやすく、ジギタリス中毒が改善してから行う。
  ●洞調律の維持ができないと予想される場合、もっと具体的には、
 1)左房拡大が高度または心房筋の繊維化が高度と予想される場合、2)長期持続例、3)僧帽弁膜症や甲状腺機能亢進症の治療前、4)抗不整脈薬投与によっても再発を繰り返す場合。

参考資料
6) 心房細動の治療と管理:井上 博、新 博次 医学書院2004.3.1発行第1版、p28-30
2004 .05.08記


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Q20:心房細動の除細動の方法にはどのようなものがあるか? 


 A:【1】自然に戻るのを待つ、【2】抗不整脈薬の静注または経口投与、【3】電気的除細動の3つがある。
 除細動の適応がある症例に対して、自覚症状や血行動態の悪化などを考慮して、総合的判断を元に治療方法を選択する。
【1】心拍数のコントロールのみ行い、自然に洞調律に戻るのを待つ方  発症後間もない症例では、心拍数を少なくする薬(ジギタリス、β遮断薬、カルシウム拮抗薬など)で、自然に洞調律に戻ることが少なくない。発症72時間未満の心房細動356例(Daniasら 1998年)で心拍数のコントロールのみで、どれだけ洞調律に復帰するかを調査した。その結果、68%が洞調律となった。発症から入院まで24時間未満は73%と高率であったが、24〜72時間は45%と低率であった。
 ●除細動できるのは100%ではない。
 ●発症から48時間過ぎると除細動後の塞栓症の危険性が増す。
 ●抗不整脈薬による除細動の成功率が時間経過とともに低くなる。

【2】抗不整脈薬を静注または経口投与する方法
 最もよく行われている方法である。発症後まだ時間が経過していない(48時間以内)に行われることが多い。長時間持続する心房細動には効果が少ない。心機能低下例では、ジギタリスにより心拍数をコントロールしてから除細動を行うことが多い。古典的な薬剤である「キニジン」の除細動効果は強力であり、教科書的には有名だが、重篤な副作用があり、安全で、確実に除細動ができる電気的除細動が好まれているため、現在日本国内ではキニジンはあまり使われていない。
【3】直流通電による方法  最も確実で、効果も迅速である。別名「電気ショック」と呼ばれるように、感電による苦痛が大きいので、鎮静剤などによる全身麻酔が必要である。

発作性心房細動の除細動効果の比較

心拍数コントロール

薬物療法

電気的除細動

経口(頓服)

静注

簡便性

比較的簡単

簡単

比較的簡単

手間がかかる

監視

短時間

短時間

長時間の監視必要

原則入院が必要

除細動効果

発症後24時間未満なら高い

中等度

高い

最も高い

除細動までの時間

数時間〜数十時間

数時間

速やか

もっとも速やか

心不全例への適応

よい適応

要注意

要注意

最もよい適応

催不整脈作用※

ほとんど問題なし

あり

あり

なし

そのた

時間とともに除細動成功率が低下

患者自身による頓服の安全性に問題あり

経過の長い例でも除細動可能

麻酔、呼吸管理が必要

参考文献6)p44の表1から一部変更
※催不整脈作用:抗不整脈薬の投与が、心室細動、心室頻拍等の新たな不整脈を誘発させる副作用を言う。

 

心房細動の除細動方法の選択流れ図:参考文献6)p45より

※血圧低下、心不全増悪、狭心症発作、WPW症候群の偽性心室頻拍は早急な除細動が必要
$十分な抗凝固療法を継続している例では48時間以下と見なして対応

6) 心房細動の治療と管理:井上 博、新 博次 医学書院2004.3.1発行第1版、p43-46

2004 .05.08記



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